【日本近代文学名作選(22)】 芥川龍之介(明治25年 - 昭和2年)による児童文学 「ある春の午過ぎです。白と云う犬は土を嗅ぎ嗅ぎ、静かな往来を歩いていました。狭い往来の両側にはずっと芽をふいた生垣が続き、そのまた生垣の間にはちらほら桜なども咲いています。白は生垣に沿いながら、ふとある横町へ曲りました。が、そちらへ曲ったと思うと、さもびっくりしたように、突然立ち止ってしまいました。それも無理はありません。その横町の七八間先には印半纏を着た犬殺しが一人、罠を後に隠したまま、一匹の黒犬を狙っているのです。しかも黒犬は何も知らずに、犬殺しの投げてくれたパンか何かを食べているのです。けれども白が驚いたのはそのせいばかりではありません。見知らぬ犬ならばともかくも、今犬殺しに狙われているのはお隣の飼犬の黒なのです。」ーー 初出 大正12年(1923)「女性改造」 ------------------------------------------ このオーディオブックは、2024年7月13日、日本近代文学館で上演した「朗読タイムレスストーリーシリーズ」を新たに収録した作品です。 ------------------------------------------ 朗読:長尾奈奈 企画/制作:声の書店 協力:株式会社 仕事/ROUDOKU.TALKER.JP (C)2024 声の書店.