序文より
本書は、ジャズ・インプロヴィゼーションにおける新しい可能性を追求するために書かれています。机上理論としての探求ではなく、実際の音楽的状況で「合成・人工 synthetic」のノン・ダイアトニック・スケールを効果的に使うための実践的ガイドです。
本書の目的は、数オクターブにわたる「合成スケールsynthetic scales」の創造を求める探究心旺盛なミュージシャンに発展的アイディアを供給し、新たな語法の確立を促すことです。本書の概念を使えば、インプロヴィゼーションにおいて自分自身でデザインした合成スケールを実際に演奏することができます。
本書で扱われている音楽的素材の多くは、私自身が見つけ出した即興演奏のための刺激的なアイディアであり、ジャズ・インプロヴィゼーションでは先進的な内容です。これらの新しい考え方は、スパイス(香辛料)のように量を控え、尚且つ、効果的に自分の料理(=自分の音楽)にうまく使われることが求められます。
本書を編纂した理由は、「ジャズ・アプローチによる音階大辞典 The Complete Thesaurus of Musical Scales」を利用する世界中のミュージシャンからの「2オクターブやマルチ・オクターブの合成スケール」に関する質問に答えるためでしたが、従来のジャズ演奏にはあまり見受けられない「型破りな」研究内容から発表を控えていました。検討を重ねた末、最終的には、伝統にとらわれない斬新なアイディアを「ジャズ・アプローチによる音階大辞典」から導く術をミュージシャンに提案する意味合いで出版する運びとなりました。
本書は、ハイブリッド(雑種、合成物)で一般的ではないノン・ダイアトニック・スケールを即興演奏で使う上で、大きな違いを生み出します。使い物にならないと考えていたハイブリッド・スケールを、正規のスケール語法の中に注入して使えることが実感できるはずです。「使い物にならないハイブリッド・スケール」を使うには、複数のオクターブにまたがる合成的構造でこれらのスケールを組み立てて使うことです。特に、ハイブリッド・ペンタトニック(5音構成)とへクサトニック(6音構成)の音階は、2オクターブやマルチ・オクターブ(注:2つ以上の複数のオクターブの意)に配置構成されることにより、新たな響きが生まれ、利用価値が大幅に向上するのです。そのプロセスは、「違う考えをする(Think different)– 違った行動をする(Act different)– 違った演奏をする(Play different)– 違ったサウンドを創り出す(Sound different)」という流れ図で説明できます。
繰り返しになりますが、本書は、全く新しい「スケール構成 scale formation」のための解説書であり、これまでのジャズ教育では出版されなかった極めて独創的な内容です。表現力の拡大が常に望まれるジャズ・インプロヴィゼーションにおいて、学習者の音楽的語彙の強化を促し、旋律創造の可能性を引き出すことを心から願っております。
日本人として初めてニューヨーク市立大学大学院(City College of New York)でジャズ・パフォーマンス科の修士号を取得し、