ヤマグチ・ギター・メソッド: YAMAGUCHI Guitar Method

· Masaya Music
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序文より


本書は、私のギター・レッスンの教材をまとめたものです。生徒やギター・プレイヤー仲間には、個別に配布されたレッスン教材をまとめて「ギター・メソッド」にする提案をされることが度々ありましたが、「ヤマグチ・インプロヴィザーション・メソッド」を編纂することが長年の目標でしたので、「ギター・メソッド」は後回しになっていました。つまり、「ギター」よりも「インプロヴィゼーション(即興演奏)」を教えることが優先事項なのです。また、「ブルース」と「ラグタイム」が、「ジャズ(とその全世界に拡充した音楽)」に推進力を与えた歴史的背景を踏まえて、本書はジャズ主体の内容ですが、近年のジャンルを問わないミュージック・シーンのようにあらゆるジャンル(genre busters)のギター・プレイヤーに向けて書かれています。


 即興演奏を学ぶ書物は、数多く出版されていますが、その内容はコード進行に対して「コードとスケールの関連性」を説明するだけのどれも似通った出版物に過ぎません。この「コード・スケールを使った教授法」は、ボストンに設立されたバークリー音楽院で1950年代頃から、創立者リー・エリオット・バーク氏が師事した「ジョセフ・シリンジャー氏のメソッド」を基盤に改良され、音楽教育界で一般化された歴史的経緯があります。しかしながら、そのバークリー音楽院で学んだミュージシャンですら、その教育内容に不満を述べることは少なくありません。例えば、「そんなコード・スケールをレスター・ヤングやチャーリー・パーカーが逐一、コード進行に対して細かく考えていたと思うのか?」といった意見を聞いたことがありますが、大変、的を射た表現だと思います。音楽を教える側にとって「コード・スケールを使った教授法」は、物事が単純化され、とても都合の良い代物ですが、音楽を学ぶ側にとってはジャズの偉人の演奏と大きく食い違うので、学習上のプロセスで、混乱や不満が生じるのは無理もありません。


 一方で、レスター・ヤングやチャーリー・パーカーなどの「ジャズの名演奏家の即興演奏を譜面に起こした採譜本」も数多く出版されています。しかし、これらの採譜本の譜面でソロを学んでも、結局は「物真似」であり、完全コピーできたとしても「自分自身のソロ」による即興演奏ではありません。つまり、自分自身のソロの構築やスタイルの創造へは、まだまだ程遠いのです。語弊のないように付け加えますが、成功している多くのプロ・ミュージシャンは、レコーディングされた音源を「自分の耳で」部分的に、もしくは、ソロ全体をコピーして学び、その旋律素材を自分のソロに応用・発展させて、自分のスタイルを構築しています。それが、ジャズ演奏する上での「語法」を学ぶやり方だからです。


この二つの点を踏まえた上で、プロ・ミュージシャンの技術習得プロセスを分析し、オリジナリティの高い「ヤマグチ・インプロヴィゼーション・メソッド(山口式即興演奏法)」教授法を確立しました。本書「ヤマグチ・ギター・メソッド」はそのギター版と考えて頂いて構いません。独自のメソッドを確立する道筋をたどると、1999年に「全ての音階の可能性を重複なしに導き出すための音階大辞典 (The Complete Thesaurus of Musical Scales)」の編纂が完成しアメリカで出版された後、ジョン・コルトレーンの採譜本、チャーリー・パーカー曲集、近年ではソニー・ロリンズの採譜本を発刊しました(Hal Leonard社により刊行)。関連性のない著作と思われるかもしれませんが、これらのリサーチは私のメソッド本2冊と綿密な関係にあります。また、「ジャズ・アプローチによる音階大辞典」、「ジャズ・アプローチによる音階教本[ペンタトニック・スケール編]」、「ジャズ・アプローチによる音階教本[シンメトリカル・スケール編]」の3冊をドレミ楽譜出版社より刊行しましたが、本書を学ぶことによって、これらの既刊も、大いに活用できるようになります。


「ヤマグチ・ギター・メソッド」は従来のメソッドとは大きく違い、固定化された考え方を刷新し、自己向上の行き詰まりを打破する目的で考えられた教授法です。ギター・プレイヤーは、本書と「ヤマグチ・インプロヴィゼーション・メソッド」を併用して学ぶことによって、これまでの「コード・スケールを使った教授法」では到達できなかった領域まで学習できるので、即興演奏で用いられる洗練された旋律を思い付けないような初心者でさえも、徐々に本格的な旋律の創造ができるようになります。「ヤマグチ・ギター・メソッド」の包括的で広範囲な内容は、全てマスターするというよりも、音楽性の成長・進展の過程で取捨選択しながら学んでいくという意図がありますので、練習の際に手元において、アイディアを導き出す事典のように活用して下さい。


「ヤマグチ・ギター・メソッド」が、学習者の可能性を最大限に引き出し、楽器上での表現を自由自在にすることを期待します。


あとがき より


「ヤマグチ・ギター・メソッド」は既刊「ヤマグチ・インプロヴィゼーション・メソッド」のギター版として執筆されましたが、「ヤマグチ・インプロヴィゼーション・メソッド」にはない学習教材が多数含まれています。本書の原型ともいえる「ヤマグチ・インプロヴィゼーション・メソッド」は、「ジャズ・アプローチによる音階大辞典」における研究成果を積極的に音楽教育に導入することを目的に編纂された新しい教授法です。「音階の可能性を全て導き出した辞典」を編纂した経験を生かした「ヤマグチ・ギター・メソッド」と「ヤマグチ・インプロヴィゼーション・メソッド」を学べば、音楽への考え方が組織化されて、自己向上意欲も増し、実践的な練習法を組み立てることができます。


「ヤマグチ・ギター・メソッド」は、ベストセラーになりうる万人受けのギター教本よりも、志の高いギター・プレイヤーが、生涯、携えることのできる「演奏のアイディアを導き出す事典」のような包括的でベストな内容を心がけました。本書の内容は、「不易流行(ふえきりゅうこう)」という言葉で形容できます。つまり、ギターの指板で肉体的、物理的制限の中で導くことのできる可能性を探求した不変性(=「不易」)と時代の「流行」にも適応する順応性の両面を内包しているのです。新しい自分独自のスタイルを求めて変化を重ねていく流行性こそが不易の本質です。勿論、ギター・プレイヤーの音楽性によっては、必要でない情報も含まれていますので、本書に書かれた全てをマスターするのではなく、必要な部分を自分自身の音楽性の成長、転換、進展の過程で、取捨選択し演奏に取り入れて下さい。


私自身が、最も努力したのは、教育における「質」を大幅に向上させる独自のメソッドを提示することでした。自らの感性で自由に判断基準ができるようになることが真の教養です。それを筆者は強く望みます。「ヤマグチ・ギター・メソッド」と姉妹書「ヤマグチ・インプロヴィゼーション・メソッド」の学習者には、ジョン・コルトレーンが死の直前に口癖のように言っていた言葉「Knowledge will set you free (知は自らを解放するであろう)」を贈ります。

About the author

日本人として初めてニューヨーク市立大学大学院(City College of New York)でジャズ・パフォーマンス科の修士号を取得し、卒業後はダウンビートなどの著名な出版物に独自のコンセプトを発表。Hal Leonard Corp. より John Coltrane Plays "Coltrane Changes" と The Charlie Parker Real Book (The Bird Book) を出版。ドレミ楽譜出版社よりアメリカで音楽教育の教材として定着しつつある代表作 The Complete Thesaurus of Musical Scales、Symmetrical Scales for Jazz Improvisation, Pentatonicism in Jazz の日本語版「ジャズアプローチによる音階大辞典」、「ジャズアプローチによる音階教本」等を出版。 人名辞典 Marquis Who's Who in America や Who's Who of Emerging Leaders に Musician・Educator としてプロフィールが掲載されている。マンハッタン・ニューヨーク在住。

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