トリクルダウン仮説を検証するための定量的な試算を行った。所得格差が大きくなるほど、トリクルダウン(富裕層からの富の滴り落ち)は機能しないという結果が得られた。
このモデルでは、家計と企業の間の貨幣フローの循環を考える。家計を高所得者、中所得者、低所得者の3層に細分し、企業を大企業、中企業、小企業に細分した。貨幣フローが循環した状態では、大企業の高所得者の所得が増えれば、それに必要な顧客(大企業以外の中所得者、低所得者)の人数は増える。循環なので、高所得者は増えた顧客たちが勤める中小企業に対して消費を行う必要がある。これがトリクルダウンである。高所得者と低所得者の所得格差が大きくなると、トリクルダウンに必要な中小企業数が増大する。これは際限なく増大するので、やがては高所得者の消費活動が時間的に困難になる。
これは、「富裕層がより裕福になれば、富裕層以外がトリクルダウンの恩恵を受ける」というトリクルダウン仮説とは真逆の結果である。
第1章 導入
第2章 試算
2.1 試算の概要
2.2 試算の一例
2.3 パラメータサーベイ
2.4 現実の大企業の経営陣
第3章 議論
3.1 トリクルダウンが機能しない理由
3.1.1 不等式
3.1.2 時間的制限
3.1.3 心理的障壁
3.1.4 富裕層=消費行動弱者
3.2 試算モデルの精緻化
3.2.1 導入
3.2.2 他の経済主体
3.2.3 企業モデルの多様化
3.3 グラスタワーとワインの例え
3.4 現実のフロー
第4章 まとめ
参考文献