オーディオブック シェイクスピアシリーズ第十九弾が新発売
読み聞かせでもなく、サウンドドラマでもない。 オーディオブックならではの圧倒的な表現力。 誰もが知っている""はず""のシェイクスピア作品をダイジェストにして続々お届けします。
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「おれか? ふん、おれはとんでもない醜男なのだ。
だからこの世のお楽しみなど、あろうはずもない。
せめて人を見下し、仰がせ、足蹴にするためには、ほら、王様の冠を手に入れる夢を持つよりほかに、おれに楽園などあるものか。
生きる限りこの世は地獄、このみっともない体に栄誉を被るまではな。
それこそ、イバラの森に迷ってもがくかのように、血まみれの斧を振るってでも道を切り開きたいさ。
そうとも、おれは笑顔だって作れる、そうともさ、おれは微笑みながら人が殺せる、嘘泣きもできる、臨機応変に顔を変えつつ、人魚顔負けに水夫らを溺れ死に、バジリスクよろしく目で人も殺せるさ。
カメレオン以上に千変万化、残虐ぶりにかけてはマキャベリも弟子にできる。で王冠は得られるか?
いいとも、どれだけ遠くとも今にもぎとってやる。」
イギリス王ヘンリー五世となったハル王子は、にわかに真面目な国王へと変わり、驚くべきほど利口なものとなって、国民の幸福を念とし自らを立派に持してゆく賢君となった。
父の臨終の遺言を忘れず、絶えずフランスを征服して貴族らをその方に働かせ、立派な口実を探し出しては外国を相手に戦争を始めることに心がけた。
一四一七年ついに四万の軍勢を率いて自らノルマンディを指して出かけ、カレーを襲い、アランソンを降し、ファレースを落とし、アブランシュをもドンフランをも占領し、セーヌ川を渡ってルーアンに達して長い攻囲ののちについに降伏せしめてしまった。
講和ののち現在のフランス王が存命中はフランスの摂政、その死後にはフランス王位を継ぐこととなり、フランス王の娘カザリンを妻として、ひとりの息子も持った。ところが冒された病は何であったかわからないが、ヘンリー五世は早くも一四二二年九月一日、パリ近くにて死去、その数日を経てフランス王も死んでしまう。そののち来たったのが紛乱、イギリスとフランスの王位はまだ生まれて九ヶ月の赤子ヘンリー六世の手に落ちてきたため、四世と五世の二代と骨を折って取った権力は、貴族たちに相争って乱用されてしまうこととなった。
ヘンリー六世の摂政でもあったヨーク公は、表には何らの野心を表すこともなく、アイルランドの反乱軍を鎮めるために出兵したヨーク公は、かえってアイルランドから大軍を引き連れてロンドンに向かい、国民感情の後ろ盾もあって、王をたぶらかす悪しき貴族をそのそばからのぞき去らんと攻め入ったのだが、反対派が西部で起こした反乱に際して反対派が西部で起こした反乱に際して、鎮圧しに行った先のウェイクフィールドで敗北、囚われた末に次男とともに殺されてしまう。
さてヨーク公には四人の息子があった。第一がエドワード、第二がエドモンド、第三がジョージ、第四がリチャードである。リチャードはせむしであり、野獣のごとき顔つきをした悪の天才であった。この戦いで父の敵《かたき》である貴族を討ち取ったのは、まさにこの者であった。
<目次>
(1)動乱・・・
(2)白バラ家の趨勢・・・
(3)兄殺し・・・
(4)バッキンガム・・・
(5)悪事の末に・・・
<解説>
シェイクスピア初期の傑作で、稀代の悪党とされるリチャード三世が主人公。16世紀前半のマキャベリズムに影響を受けた専制君主を目指して、権謀術数に長けた人物が「目的のためなら手段を選ばず」権力欲を振り回す話。
この「リチャード三世」は、「ヘンリー六世」三部作に続く、シェイクスピア「第一・四部作(薔薇戦争もの)」の最後を飾る作品であるため、上演する際も組み合わせられることが多く、イギリスではバートン&ホール、映画ではローレンス・オリヴィエ、本邦でも木下順二が一連の劇を合成させており、本稿でも一部「ヘンリー六世」の筋書きや台詞を採り入れている。
なおシェイクスピア原典ではエドモンドが末子とされているが、クィーチ版では史実通りリチャードが末の子に修正されている。またリチャード三世は、史実ではこうした残虐な人物ではなかったという説もある。
<本シリーズは、シェイクスピアの世界を判りやすいダイジェスト版として、楽しみながら手軽に知ることができます。>
→こんな人におすすめ シェイクスピア作品に興味はあるが、全部読むのは面倒くさい 戯曲が中心なので、聴いた方が楽しめそう