恋愛というものは常に一時の幻影で、必ず亡び、さめるものだ、
ということを知っている大人の心は不幸なものだ。
恋愛は幻であり、永遠の恋などは嘘の骨頂だとわかっていても、
「それをするな」といい得ない性質のものである。
それをしなければ人生自体がなくなるようなものなのだから。
つまりは、人間は死ぬ、どうせ死ぬものなら早く死んでしまえ、
ということが成り立たないのと同じだ。しかし何度、恋をしたところで、
そのつまらなさが分かるほかに人は偉くなるということもなさそうだ。
むしろその愚劣さによって常に裏切られるばかりであろう。
そのくせ、恋なしに人生は成りたたぬ。 ああ、孤独。
孤独は、人のふるさとだ。恋愛は、人生の花であります。
いかに退屈であろうとも、この外に花はない。
いつの時代も男と女の関係は変わらないものなのかもしれません。
多くの名言を生み出した坂口安吾の「恋愛論」。
オーディオブックでお楽しみください。 ■坂口安吾(さかぐち・あんご)
小説家。新潟市西大畑町に生まれる。
幼稚園の頃より不登校になり、餓鬼大将として悪戯のかぎりを尽くす。
1926年、求道への憧れが強まり、東洋大学印度哲学科に入学するも、
過酷な修行の末、悟りを放棄する。1930年、友人らと同人雑誌「言葉」を創刊。
1946年、戦後の本質を鋭く把握洞察した『堕落論』『白痴』の発表により、
一躍人気作家として表舞台に躍り出る。戦後世相を反映した小説やエッセイ、
探偵小説、歴史研究など、多彩な執筆活動を展開する一方、国税局と争ったり、
競輪の不正事件を告発したりと、実生活でも世間の注目を浴び続けた。
1955年、脳溢血により急死。享年48歳。