本書「あとがき」より:
デビッド・リーブマン氏の「A Chromatic Approach to Jazz Harmony and Melody (Germany: Advance Music)」の初版を入手したのは、日本の郵便局で国際郵便為替を購入して、ジェイミー・エーバーソルドのカタログで個人並行輸入した確か1992年のことでした。ジャズ演奏をはじめた理由は、ジョン・コルトレーンのアルバム「Giant Steps」でしたので、そのコルトレーン・スタイルを踏襲するデビッド・リーブマン、マイケル・ブレッカーやスティーブ・グロスマンなどは憧れの的だったのです。特に気に入っていたのが、「David Liebman Plays the Coltrane and Shorter Play-A-Longs(商品コードはDLP)」で、アメリカに行く機内では、渡米時にリリースされたばかりの「Return Of The Tenor - Standards」を聴いていました。それほど尊敬していたデビッド・リーブマン氏と知り合えたことは、自分にとって大きな財産です。リーブマン氏には、努力を惜しまない姿勢を評価され、自分を形容する際には「hard worker 努力家」という褒め言葉を必ず頂いたので、今もその姿勢は崩していないつもりです。これまで発表してきた書物を執筆するための膨大なリサーチを成し遂げられたのも恩師であるデビッド・リーブマン氏のジャズ教育における多大な貢献に刺激を受けたからです。
「A Chromatic Approach to Jazz Harmony and Melody (Germany: Advance Music)」の初版を入手した時は、不協和サウンドに面食らい、どう使って良いのかわかりませんでした。しかし、後年、デモ演奏のCDが発売され、意図する色彩的表現が徐々に理解できました。重度の腱鞘炎にも関わらず、難しいクロマティック・ラインを毎日練習し、分析も行った結果、デモ演奏まで行えるようになりました。最終章におけるデモ演奏は10年前のものですが、リーブマン氏も大変気に入り「どうやったんだ?」と尋ねられました。仲間のミュージシャンからも同じ質問を度々されて、自分が考える「ジャズ・クロマティシズムの手法」を本書で共有する段階に至りました。あらためて用例の一部引用などを許可してくれた恩師、デビッド・リーブマン氏に謝意を表します。
ドイツのアドバンス・ミュージック(Advance Music)が元々、クラシック系の出版社で、ジェイミー・エーバーソルドのセミナー講師として訪れたデビッド・リーブマンに協力を依頼したことから、ドイツにおけるジャズ出版が始まったことは、残念ながら日本ではほとんど知られていません(注意:「30 Compositions by David Liebman」が始まりです)。そのアドバンス・ミュージックの出版物の中でも、最もレベルが高く、包括的な内容で、数多くのミュージシャンに信頼されているのがデビッド・リーブマン氏の「A Chromatic Approach to Jazz Harmony and Melody (Germany: Advance Music)」です。20代に個人並行輸入で入手したこの本の改訂版の編纂に、自分が協力することになるとは夢にも思いませんでした。
本書で紹介した「色彩的表現」は、何度も説明しているようにビバップ語法、ダイアトニックなジャズ演奏だけを理想としているプレイヤーには役に立たないかもしれません。しかし、ジャズ・インプロヴィゼーションに仕事や趣味など何らかの形で関わる以上、「ダイアトニック」と「ノン・ダイアトニック」語法の区別をできるようになることはとても大切です。本書におけるクロマティック・ラインは、「質」が高く、精巧なものに限り、取り上げました。つまり、ジャズ・クロマティシズムの特質を明らかにする用例のみを厳選したのです。プロでも世代の違いによっては、「色彩的表現」がうまく出来ないことは本文で説明している通りですが、自らの感性で自由に判断基準ができるようになることが真の教養です。最後に、ジョン・コルトレーンが死の直前に口癖のように言っていた言葉「Knowledge will set you free (知は自らを解放するであろう)」を贈ります。
本書が日本における「ジャズ・クロマティシズム手法」の礎となり、知識とインスピレーションの両方を読者に提供し、自分の音楽語法に基づく「クロマティック・スタイル・インプロヴィゼーション」の指針となることを心から願います。
日本人として初めてニューヨーク市立大学大学院(City College of New York)でジャズ・パフォーマンス科の修士号を取得し、