泉鏡教授の探偵旅行: 金沢 鎌倉 サン・ジェルマン・アン・レー

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名古屋にある女子大学でフォークロア学を研究している教授泉鏡が教え子の女子大生たちと研究旅行に行くが、その旅先で必ずと言っていいほど奇妙な事件に巻き込まれる。事件の舞台は金沢の中でも古い町並みを残す味噌蔵町、主計町、兼六園、卯辰山を皮切りに、鎌倉は由比ガ浜、東京は番町、遠くはフランスのパリ郊外サン・ジェルマン・アン・レーにまで及ぶ。本来、研究のためのリサーチ記録が、事件簿となってしまったと言うべきかもしれない。

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泉鏡花記念館にて。

泉   「ああ、やっぱり『味噌蔵町焼け』ってあったんだ。おばあちゃんが言っていたんだけど、おばあちゃんが生まれる何年も前に味噌蔵町のあたりで大火があり、この辺一体丸焼けになっちゃたんだ。泉鏡花の家もここにあったんだけど、どうもその時焼失したみたいなんだよね。鏡花は火事の知らせを聞いて東京から金沢に急いで帰って来たらしいんんだ。おばあちゃんが言うには、その時に焼け出された能楽師の娘さんが食べるのに困って主計町で芸妓さんを始めたらしい。能楽師であった父親とそして母親もその火事で亡くなってまったからね。それはそれは踊りでも三味線でも唄でも筋がよくて、さすが血筋だと当時主計町でもうわさになって、おばあちゃんも娘時代にはその方に踊りを習ったと言っていたよ。自分が思うには、多美ちゃんが言っていた紅さんというのはその能楽師の娘さんの御子孫ではないかと思うんだ。確かおばあちゃんが自分のお弟子さんの中には大した御身分であった方の孫だかひ孫さんがいると言っていた。能楽師の娘さんは東京の偉い作家の方に見初められたとも言っていたよ。」

六美  「せ、せんせい、紅さんの紅ってどこかで見た名前だよ。なんか近代国文学の講義で聞いたよ。あの講義中、自分はウトウトして眠りそうだったからね。ええーと。」 園子  「尾崎紅葉のこと?」

泉   「まさか?でも尾崎紅葉は泉鏡花の師匠だよ。尾崎紅葉が金沢に来ていたなんて聞いたことないよ。でもわからないなあ。女房が前言っていたけれど女房は実家が三河の安城なんだけれど、ほら『利家とまつ』という大河ドラマでまつが父親が殺されて安城から名古屋の荒子の利家のところに逃れるシーンがあっただろ。あの安城ね。女房の父親が言ってたらしいんだけどあの歌人の与謝野晶子が安城のお寺にお金を借りに来たことがあるって言ってたらしいんだって。お寺というのは当時は結構過激だったらしい。与謝野晶子も『君死にたもうことなかれ』弟を思って反戦の詩を書いているよね。で、与謝野晶子の金の無心の話など文学史上では安城のお寺のことは出て来ないし。だから尾崎紅葉が金沢に来ていなかったとは絶対に断言できないよね。」

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第1話「金沢味噌蔵町殺人事件」より

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