沖縄・慶良間の「集団自決」: 命令の形式を以てせざる命令

· 紫峰出版
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 沖縄「集団自決」裁判(2005年8月~2011年4月)で幾つかの重要な証言がなされ、それらを踏まえた裁判所の判断は、「集団自決に軍が深く関わったと認めるのが相当だが、命令の内容を認定することには躊躇を禁じ得ない」というものである。本書の関心は裁判所が判断を躊躇した部分にある。

 軍の命令は違法であっても無条件に実行される。命令者は無論、責任を問われるが、実際にはこれを回避する手段が存在した。それが本書の副題となっている「命令の形式を以てせざる命令」である。この語は、BC級戦犯裁判の被告となった西部軍司令官横山勇中将が法廷で使用した。横山司令官は、乗機が撃墜されて俘虜となった米軍搭乗員を裁判抜きで処刑した責任を問われたのだった。

 沖縄「集団自決」裁判において裁判所が命令の内容自体の認定に躊躇したのは曖昧さの故であるが、これこそが、「命令の形式を以てせざる命令」の特徴である。本書は、これをキーワードとして「集団自決」の命令の問題を論ずる。


 1944年7月のサイパン島の失陥を受け、居留民を抱えた戦闘をどうするかが大本営と政府で議論され、上陸防禦の基本方針の大転換もなされた。これらを踏まえ沖縄守備を担任する第32軍の牛島司令官の訓示が出された。

 特攻艇の秘密基地があった慶良間諸島では住民の疎開は禁じられ、狭い島内に逃げ場はない。防諜と作戦の阻害要因の除去を要求する軍司令官訓示に従えば、米軍が上陸すれば一般住民は自決させるほかない。そして、同訓示は、それをあからさまにではなく「懇ろに」、つまり「命令の形式を以てせざる命令」で伝えよとしている。

 慶良間諸島には特攻艇の部隊が3個戦隊配備されたが、座間味島に駐屯した第1戦隊と渡嘉敷島に駐屯した第3戦隊はこのスキームで命令を出し、「集団自決」が発生した。一方、阿嘉島と慶留間島に駐屯した第2戦隊は、軍司令官訓示ではなくそれより下位の上陸防禦戦闘の教令に従い、明示的に命令を出した。その結果、「集団自決」は、自決を命じた慶留間島で発生し、自決を止めた阿嘉島では発生しなかった。


 「集団自決」の規模は軍の対応だけでなく、当時国策として進めた警備方策、与論指導方策も大きく関わる。また、「集団自決」で悲劇が終わったわけではなく、渡嘉敷島では住民が多数処刑された。これらについても論ずる。

About the author

1950年 三重県生まれ

1973年 東北大学理学部物理学科卒業

1978年 京都大学大学院博士課程中退 理論物理学専攻

防災関係の仕事の傍ら戦史を研究

著書 検証『ある神話の背景』(2012, 紫峰出版)

船舶団長の那覇帰還行(2012, 紫峰出版)

陸軍 暗号教範 (共編 2013, 紫峰出版)

新教程日本陸軍暗号 (共訳 2013, 紫峰出版)

陸軍暗号将校の養成 (共編 2014, 紫峰出版)

日本陸軍暗号の敗北 (2015, 紫峰出版)

日本海軍暗号の敗北 (2018, 紫峰出版)




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